砂糖粥

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「ワタシノ国デハ、風邪ヒイタラコレタベルヨ。」

 


そう言ってベトナム人の義母がベッド横のテーブルにお粥を置いた。

 


高校2年の8月、真夏なのに何故か全く流行っていないインフルエンザに侵された私は朦朧とした意識の中で、なんだ、ベトナム人も風邪を引いたらお粥を食べるのか。外国だったら風邪を無理矢理治す為にすり潰した昆虫とか厳ついもの食べてると思ったのに。という偏見を覆された事を残念に思った。

 


そのまま義母は私の部屋を出ていき、私はお粥を口に入れた。そして速攻で吐き出した。

 

恐らくだが味付けが砂糖でされてあってめちゃめちゃに甘いのだ。

 


日本の一般的な塩で味付けされたお粥を思い浮かべながら食べた私は、想像と正反対の味が口の中で広がった事に体がビックリしてしまった。

 


吐き出した米がテーブルに散らばったが、インフルエンザに体力を奪われてしんどいので放置した。

 

 

 

眠りにつこうとするベッドの中で、甘いお粥、通称"砂糖粥"を持ってきたのは打ち解けられない私との距離を縮めるための計らいだったのかなと考えた。

 


学校でも友達が少ない私が、父親の都合で突如連れてこられた見知らぬ外国の女と仲良くするのは難しい。そもそも風邪を引いた時にすり潰した昆虫も食べないような面白みのない女と仲良くするメリットが一体どこにあるんだ。

 


いやしかし"父親の都合"と書いたが実は父親が、父子家庭で育った私達(私と妹)の為を思って再婚をした可能性は無いだろうか?と、ほんの一瞬考えた事がある。

 

 

 

当時2ちゃんねるまとめサイトで『片親の女との結婚はやめとけ』みたいなスレを見た事があった。内容はざっくり言うと片親で育った奴は人格に難があるからとの事だった。

 


父親は時々、2ちゃんねるのまとめで知ったニュースとそのスレに投稿されたエッジの効いたレスをあたかも自分の意見かのように我々娘達に披露する事があった。

 


父よ、意気揚々と語っているところ悪いが君の娘は2ちゃんねるのまとめをばっちり見ているタイプの女だ。バレてるぞ。他人の意見をあたかも自分の意見のように発言しているのが。

 


そんな父親なので、私と同じように『片親の女との結婚はやめとけ』のスレを見たのかもしれない。そして娘達の将来を考えて母親が居た方がいいと思って再婚に踏み切った……………いや無いな。うん。それは絶対無い。

 

 

 

なぜなら父親は再婚が決まった時に我々姉妹を呼び出し、

 

「再婚する事になったから。」

 

とだけ伝えた。

 

"相談"では無い、"決定事項"として。自分の結婚をお前らに意見される筋合いは無いと言わんばかりの強い口調で。とても我々の事を考えているとは思えない。

 


その時に再婚相手の写真を見せられた。若くて美人だった。当時40ちょいくらいの歳の太ったオッサンの元に当時29歳のこんな美人が来てくれたらそりゃあ娘達の事など目もくれないな。ただただ本能に従って結婚を決めるのも無理がないなと。

 


でもなんだか喧嘩を売られている気分になり、私も妹も「おめでとう」などという言葉は一言も言わなかった。二人とも「へー」くらいの、今思えば驚く程薄い反応をした。

 


再婚をするという事は、父親個人だけの出来事では無く、我々も同じ屋根の下でその再婚相手と同じ釜の飯を食うようになるという事だ。

 


しかも当時私は中学生。思春期真っ只中だぞ?お父さんの服と一緒に洗濯しないでとか言い出すデリケート過ぎる時期だぞ?そんな時期にいきなり他人と住めと。しかも日本語が殆ど通じない外国人というではないか。自分だけの欲望を満たす為によくそんなデリカシーの無い行動が出来たものだな。

 


私は『勝手にやってろ。あんたの結婚なんかどうでもいいわ。』という姿勢を貫こうとその時に決めた。

 


相手の女が初婚だった事もあり、祖国のベトナムで結婚式を挙げた、らしい。私も妹も同居している祖母も誰も参加してない。そもそも招待すらされてない。されても誰も行かなかっただろう。

 


ちなみにベトナムでは歯の綺麗さが重視されているらしく、父親は結婚式の為にベトナムの歯医者でヤニで黄ばんだ歯を全部抜かれて不自然な白さの差し歯にさせられていた。

 

 


ドラマのように小さなきっかけで何かが変わる訳も無い。砂糖粥ひとつではベトナム人義母と私の距離感は埋まらずに時は過ぎ、私は高校を卒業し家を出たのだった。